ダンテ・アリギエリの霊界重要参考書『神曲』


聖ドミニコの栄光
The Glory of St.Dominic
(聖ドミニコの栄光)
 第四天:「太陽」 賢者と神学者の霊魂が勝利に輝く。ダンテは、バニョレアの聖ボナヴェントゥーラと聖トマス・アクィナスに会い、信仰の偉大な二人の師、聖ドミニコと聖フランチェスコの賛辞を聞く。


ダンテ・アリギエリ
DANTE ALIGHIERI(1265-1321)


 1265年フィレンツェ、バディア街アリギエリ家に生まれた。9歳の時、フォルコ・ポルティナーリの娘、ベアトリーチェにはじめて出会った印象があまりに強烈で神秘的慟哭を覚え、詩人ダンテに≪私の精神の中で輝く女性≫:霊感を与える女神として登場する。1290年ベアトリーチェが他界すると、ダンテは激しい衝撃を受け、その後間もなく『新生(1293-1295)』が著作された。フィレンツェの政治に深く関与したダンテは、白党グエルフィ派の一員だったが、黒党ギベリン派との政争に巻き込まれ、追放の刑を受け生涯亡命生活と放浪の旅する詩人となった。詩人ダンテが、広大な知識と神秘的詩作を残したのは、その亡命生活においてで、主要な著作『俗語論』、『饗宴』、『神曲(1306-1321)』、『帝政論』などを残す。
 1321年、ラヴェンナのグィード・ダ・ポレンタの任命を受けてヴェネツィアへ大使として赴くがその帰途9月13日の晩客死し、遺体はラヴェンナのサン・フランチェスコ教会に埋葬されている。
 霊界の重要参考になる『神曲』は、壮大な詩として地獄煉獄天国(天界)至高天に至る旅路をうたい、ダンテは繰り返し神から託された任務について述べる。その内容は、個人、市民、宗教的共同体に妥当な救済の過程を示す魂の浄化方法や栄光の道、罪の結果を知ることも許されたと言及する。
 これによく酷似した文学が、1264年にカスティリャ語に翻訳されたイスラム教『ムハンマドの階梯の書』と言われる。同様のテーマを中世に広く普及していた作品は、他に『エノク書』、『聖パウロの幻視』、『アルベリコの幻視』、『トゥンダロの幻視』、『聖ブランダン航海記』、『天のイエルサレムとバビロニア』などとされる。

 『神曲』は、地獄編、煉獄編、天国編の三編に別れ、各編は100行をややこえる33の歌によりできている。11音節3連句構成の詩で、約1307年から一生を通して制作されたと考えられる。
スカラのカングランデに宛てた手紙から「喜劇:La Divina Commedia」と呼ばれていた。ラテン語ではなく、トスカーナ地方の方言で執筆され、多くの人に読まれ、この詩篇は罪人と神の対話形式で綴られてある。詩は、寓話や道徳の隠喩に富んでいる。
 登場するローマの詩人ウェルギリウス(ヴェルギリウス)は、ダンテを地獄界と煉獄界の案内人であるが、彼は道徳的な知恵を伴った理性とダンテ自身の良心の声を象徴しており、また、ダンテに愛されたベアトリーチェは、天国界の案内人であるが、彼女のみが神のみ前に導くことのできる啓示を受けたキリスト教聖人たちの最高知識を象徴している。





注目に値するのは、錬金術などと同じように、天国界が「九つの半球(=九天);10圏」として存在していることだ。
<地上天国:>から
<第一天:月;剛毅>
<第二天:水星;正義>
<第三天:金星;節制>
<第四天:太陽;慎重>
<第五天:火星;信仰>
<第六天:木星;希望>
<第七天:土星;愛>
ヤコブの梯子
<第八天:恒星;マリアの勝利の祝宴>
 至高天に昇る前に、聖ペトロ、聖大ヤコボ、聖ヨハネが、良きキリスト者の証しとして「信仰」,「希望」,「愛徳」についてそれぞれダンテに尋問する。

 「愛はいつまでも絶えることはない。・・・今あるものは信仰と希望と愛である、そのうちでもっとも偉大なものは愛である。」(聖パウロのコリント人への手紙13:8,13)
 ダンテの『天国編』第25歌83,84は、「棕櫚の葉を受けるまで、私を去らなかったこの徳(希望)に対して、私はいまなお愛の火に燃えているが、・・・」このことから、天国へ来るということは実際に合い間見えるようになるから信ずる必要はなく、信仰はなくなり、また、至福の中に存在し、永遠に持ち続けることになるから希望もなくなる。ゆえに天国ではただ、愛だけが続き、永遠に存在する。

・「信仰」とは何か?と初代教皇(父:パパと呼ばれる)聖ペトロが問うと、「希望するものの保証であり、見えないものの証拠である」(ヘブライ11:1)を引用してダンテは、「偉大な戦士の御前で私に発言を許し給う聖寵よ、―なにとぞ私の考えに明らかな表現を授け給え、―父(聖ペトロ)よ、あなたと共にローを正道に導いた尊い御兄弟(聖パウロ)が真理のペンよりお書き残したごとく、信仰とは望みの実体であって、まだ見ぬものの論証であります、これが信仰の本体であるかと思われます」(『神曲:天国編』第24歌52〜66)。続けてダンテは、実体と論証を引用する理由を弁証し、「霊界の天上にまします霊の姿やわが目に映るあまたの深遠な事物は、下界ではまったく姿が隠れ、なにひとつ見えませぬ。下界では、かような事物の存在はひとえに信仰より由来し、偉大な希望は、その信仰を基(もとい)として上に建ちまする。それゆえ信仰は、実体の性格を映します。そして、私どもは他のものを見ずに信仰からはじめて三段論法を成し遂げねばなりませぬ、それゆえ信仰は、論証の性格を現わします・・・」(『神曲:天国編』第24歌70〜78)と答える。

・「希望」とは何か?「希望」はどこから来たか?と聖大ヤコボが問うと、「永遠の命と必要な恵みを必ず与えてくださることを深く望むこと」(公教要理)のごとく、ダンテは、「希望は、未来の栄光を疑う余地なく待つこととその期待は、神の恩寵と人間のその時までの功徳とに由来します。・・・『聖名を知るものはあなたによりたのむ』(ダビドの詩篇9:11)わが同胞の信仰者に聖名を知らぬ者、誰かおらんや?・・・」(『神曲:天国編』第25歌67〜79)と答える。

・「愛徳」とは何か?「愛に引きよせるもの」は何か?と福音史家聖ヨハネが問うと、「我らが如何なるものよりも、また、自分よりも天主を愛し、天主に背くよりは、むしろ死ぬ方が良いと思うこと。また、天主のために他人をも自分のように愛すること。天主を愛する理由は、限りなき善良にして完全なる御方である天主ご自身を人間が自発的に愛することを望まれた、人間に絶えず偉大なる恩恵を賜っておられ、死後には一層、偉大なる恩恵を与える約束をされた、人間がどれほど徳を積みどのような善行を行っても天主を愛する徳がなければ救霊はできない」(公教要理)のごとく、ダンテは、「・・・善は、善であることを理解される限りは、たちどころに愛の炎を点火します。善が完全に近ければ近いほど、その力も大きくなります。そのため、真実を見てとる本質たる知性は愛にうながされ、近づいてくれます。これらの真理を私に理解させてくれる人は、あらゆる存在のはじめなる永遠の愛を私に示してくれた人でした。・・・『私は、ゆるそうと思う者をゆるし、あわれもうとする者をあわれむ。』(出エジプト33:19)・・・人間の心を神に向けさせるだけの力を持つもの、世界の存在や私自身の存在が神を愛するようみな相和して助けてくれます。キリストが甘んじて受け入れた死、希望の賜物である永遠の命と天国、・・・神が授け給う慈愛の大きさに応じて私は愛します」(『神曲:天国編』第26歌28〜66)。

<第九天:原動天;>
<第十天:至高天;神の御座 恍惚と陶酔>
 各天界はそれぞれの才能を持つ霊魂がいわば働いているとされ、中世の錬金術,占星術(天文学)の法則に従い、各天球の働きが地上生活にすぐに影響を及ぼすとされる。


地獄界もまた、同様に同心円状に九圏に別れて存在するが、最も深淵にある第九圏;「コキュートス」について述べる。
 第一圏谷 リンボ(黄泉;洗礼を受けなかった者)
 第ニ圏谷 好色、肉欲の罪
 第三圏谷 大食の罪
 第四圏谷 貪欲、吝嗇、けち、濫費家
 第五圏谷 憤怒、怠惰、ねたみ(嫉妬)、傲慢
 第六圏谷 異端者、
 第七圏谷 第一円 暴力、同胞殺人者、
        第二円 自殺者、
        第二円 自然を犯した者、同性愛者、神を侵犯した者、高利貸
 第八圏谷 10分割の濠マレボルジェ(鉄灰色の石);女衒、姦通者、聖職売買、
    占い師、詐欺師、偽善者、泥棒、偽忠告者、不和・分派活動者、偽造者、嘘つき
 巨人の穴
 第九圏谷 裏切り者の地獄:「コキュートス(Cocytus) 」嘆きの川と呼ばれる氷地獄。
    同心の四円に区切られ、最も重い罪、裏切を行った者が永遠に氷漬けとなっている。裏切り者は首まで氷に漬かり、涙も凍る寒さに歯を鳴らす。 最下圏。円の中心にはルシファー(サタン)がいる。
 第一の円 カイーナCaina:肉親に対する裏切り者、旧約聖書の『創世記』で弟アベルを殺したカインに由来する
 第二の円 アンテノーラAntenora:祖国に対する裏切り者、トロイア戦争でトロイアを裏切ったとされるアンテノールに由来する
 第三の円 トロメーアPtolomea:客人に対する裏切り者、旧約聖書外典『マカバイ記』に登場する裏切者トロメオに由来?
 第四の円 ジュデッカJudecca:主人に対する裏切り者 、イエズス・キリストを裏切ったイスカリオトのユダに由来する
 地獄の中心ジュデッカのさらに中心、地球の重力がすべて向かうところには、神に叛逆した堕天使のなれの果てである魔王ルチフェル(サタン)が氷の中に永遠に幽閉されている。魔王はかつて最も美しい熾天使(セラフィム)であったが、今は醜悪な三面の顔を持った姿となり、半身をコキュートスの氷の中に埋められていた。魔王は、イエズス・キリストを裏切ったイスカリオトのユダ、カエサルを裏切ったブルートゥス、カッシウスの三人をそれぞれの口で噛み締めていた。二人の詩人は、魔王の体を足台としてそのまま真っ直ぐに反対側の地表に向けて登り、岩穴を抜けて地球の裏側に達する。そこは煉獄山の麓であった。・・・

 ダンテの『神曲』に啓示された霊界の信憑性は、重要と見られる。多くの共通した霊的状態(ヴィジョン、環境や働き、影響)といったものが、他分野でも異口同音に表現されており、カトリックの教義的にも裏付けられる点が多々見受けられる。


第十天:至高天(第十圏)
 はじめの天:「創世記1:6〜8」、原始天あるいは「不動の原動因(アリストテレス)」とも呼ぶ。 至高天=エンピレオ(Empireo);トマス・アクィナスの『神学大全』、ギリシャ語の“<enpir>=すべて炎”に由来する。
 ゴシック建築のバラ窓に表現され、完全な霊的創造物にのみ入場可能な純粋な光輪とされ聖なる愛と無限の慈悲の構成を象徴している。『神曲』の「天国編30〜33」
 ダンテは、ベアトリーチェに導かれ至高天に着くと、まばゆい光にしばし見ることができず、やがて花咲く岸辺の間を流れる光の川に佇んでいることに気づき、至高天は「白い薔薇」の形だと理解する。天上の女王(聖母マリア)は、薔薇の頂点にいて光と無数の天使に包まれおり、聖ベルナルドゥス(ベルナール)は、ダンテが神を直視できるよう聖母にたすけを請う執り成しの祈りをする。こうして、ダンテは、至高天の光と感動と啓示の中で「太陽と星々を動かす愛」を示される。
 神秘主義者たちは、神の至高の座を同様に表現しており、例えば、イブン・アラビー著作『幸福の錬金術(1200年頃)』によれば、「完全な信者が惑星天を越えて『終末の薔薇(蓮)』に到着し、四つの川に向き合う。四つの川とは、コーラン、トーラ(律法)、詩篇、福音書である。聖人や至福者の霊魂が住み、光の霊気に包まれ、天国に入るとその後無数の天使に迎えられ、天国の真の意味、天上の愛の味わい、至福、普遍的慈悲、その他の神秘の意味を理解する。すべて理解すると、やっと神の玉座とそれを支えるものたちを見ることができる。」

★太祖アダムの年齢から人類の推定歴史年齢
 太祖アダムがダンテに言う、「・・・さあよいか、息子よ、木の実を味わったというだけではあのような追放(エデンの園追放のこと)の原因とはならなかった、限界を勝手に超えた(掟を守らなかった;神と同等のものとなろうとして誘惑に負け高慢の罪を犯した)という点が問題なのだ。君の夫人(ヴェアトリーチェ)がヴェルギリウスを動かしたあの地(辺獄[リンボ];黄泉・陰府)からこの天国の集いに思いこがれつつ私は4,302年を過ごした。そして、私は、地上にいた間に、太陽が930回(創世記5:5)その軌道にあるすべての上に帰るのを見た。・・・」より推測すれば、
 イエズス・キリストが黄泉に下って、福音を伝え、太祖たちを悪魔の牢から救い出し、天国に引き上げるまでの期間4,302年+地上での一生涯930年をたすと、
5,232年となる。イエズス・キリストの十字架磔刑を−西暦30年頃とすると、
5,202年となる。+現在西暦2007年をたすと、
太祖アダムの創造から現在までの歴史年代は、7,209年となる。
ダンテが記した数値は、中世歴史家エウセビウスの説を引用したと言われている。



【参考文献】
バルバロ訳聖書(講談社)

アンドレーア・アロマティコ著 「錬金術」/種村季弘 監修(創元社)

「天国と地獄の百科」/著者:ジョルダーノ・ベルティ
/翻訳:竹山博英,柱本元彦(発行:株式会社原書房)

世界の文豪叢書「ダンテ」翻訳:田中英道・田中俊子
(発行:株式会社評論社)

世界文学全集第一巻 ダンテ「神曲」 翻訳:平川祐弘(発行:河出書房新社)

聖なる読書と伝説「薔薇窓」:http://baramado.info/ 著者:Joanne del apocalypse







戻る
冒頭へ↑


訳本をお探しのあなた!楽天ショップには、楽天ブックスもありますよ!