忘れ去られた偉大な殉教処女「聖バルバラ」


ルーカス・クラナッハ「聖バルバラの殉教」


聖バルバラ(バーバラ)
X(3世紀,祝12月4日)
F.Barbe. L.Barbara.


[伝記]
 史的証拠はないが、7世紀頃から伝説に登場した殉教処女聖人。エジプトのへリオポリスまたは小アジアのニコメディア出身。ローマ皇帝マキシミアヌス、総督マルキアノスの治世(286〜310年頃)ディオスクルスと称する富裕な大地主で貿易をも営む商人貴族がいた。その一人娘がバルバラであった。彼女は、類い稀なる美貌で、多くの貴族や地主の男達に求愛されたため、父ディオスクルスは溺愛のあまり彼女を高い塔の中に侍女一人をつけて幽閉した。しかし、その侍女はキリスト者でその感化を受けて密かにキリストに帰依した。
 父親は、所用の旅に出かけている間に浴室を作るよう建築家や工人に命じておいたが、父が定めた二つの窓以外にバルバラは、三位一体をかたどってもう一つ窓を作るよう職人に命じた。また浴室は水が流れるようにし、十字架の印を指でつくり、彼女の足で刻印をつけた。そこを洗礼の場に変え、神に祈って受洗。その後、彼女の改宗に怒った父親から逃れて、山の洞窟へと天使に運ばれる。その山に二人の羊飼いが放牧していた。彼らは、バルバラを見てはじめ恐れていた。ところが、父ディオスクルスに告げ口したので彼らの羊たちはたちまちイナゴになって四方へ飛び去っていった。父はバルバラの髪を引っ張り、山からおろし、城の独房に閉じ込め鍵をかけた。父は、総督マルキアノスに訴え、彼女を引き渡した。総督は、偶像の神々に生け贄を捧げ、キリスト教に入信したことが誤りであったことを認めさせようとするが、バルバラは拒絶し言った。
「預言者が言っているように、偶像の神々は、口はあれど語らず、目があっても見ず、耳があっても聴かず、鼻があっても臭いを感ぜず、手足があっても何も出来ない無力なものである」。

 総督は激昂し、彼女を裸にして鞭で叩いた。その夜、突如天の光がバルバラに向かって射し込み、
 「バルバラよ、勇気を持ち、強くなりなさい。おまえの殉教は天地の中で大きな喜びとなる。残忍な人間のおどしを恐れるな。私はおまえと一緒にいて、いろいろの傷からおまえを守るであろう。」
 と、救世主が告げた。
 彼女は聖主の言葉に勇気づけられ恍惚となった。翌朝、総督が牢屋に入ってみると、彼女は少しも傷ついていないのを見て驚いた。総督は、怒り彼女の胸に燃えるたいまつを押しつけた。それでも足りず、鉄槌で頭を叩いた。しかし、バルバラは少しも傷つかず、
「わが心を知っておられるキリストよ、あなたに私が憧れていることを良くご存知の聖主よ、私を守ってください」
 と、彼女は祈った。
 総督は、彼女の胸を刺し貫くよう兵士に命じた。
 「聖主よ、あなたのみ顔を私からさらせず、あなたの聖霊を私から取り除かないで下さい。」
 と、バルバラは祈った。彼女は不死身であった。総督は彼女を裸にして、群衆の前で鞭を打つよう兵士に命じた。すると、
 「天地を雲でおおう方よ、無神の人々からわたしの体を見られぬように守って下さい。」
 と、バルバラは神に祈った。聖主は天使をつかわし、白い雲で衣のように包み、彼女の体を隠した。ついに総督は、キリスト教に入信したものの見せしめとして、バルバラを各地に引き回し、ヘリオポリス付近のアラシオン村で斬首の刑に処することにした。バルバラは、勝利の讃歌を歌った。
 「永遠に見ることなく、創造されることなき聖主よ、あなたは天を広くつくり、もといの地を固くつくり給うた。また、殉教の王冠である聖主よ、常に聖主なるあなたとその名に仕える女性のことを顧みて下さい。わたしの殉教の日を思って下さい。これらの人々の罪を裁きの日に考えないで下さい。われらが肉をもつ弱き存在であることを、ああ主よ、あなたはよく知っておられます。なにとぞ聖主よ、彼らに恵み深くして下さい。アーメン。」
 祈り終えると天から、
 「さあ、わが勝利の殉教者よ、今こそ天のわが父の家に在る安らぎを見出すがよい。あなたの祈りはどこにあってもわたしは守っていよう」
 と、聖主の声がした。
 バルバラは、父ディオスクルスの手でついに斬首され、その日一緒に侍女ユリアーナという聖女も殉教を遂げた。処刑直後、大暴風雨がおこり雷に打たれて父は罰を受けた。敬虔なキリスト者ヴァレンチヌスは、聖女たちの亡骸をひそかに引き取り、聖所に運び入れ、手厚く葬った。
 砲兵,消防士,鉱夫,建築家,料理人等の守護聖女。また、フェルラーラ、マントヴァなど諸都市の守護聖女。十四救難聖人の1人。

 1969年にカトリック教会暦から聖処女バルバラの名前が削除された。なぜ、削除されてしまったかは不明であるが、サタンは、聖女のとりなしを恐れるがためにカトリック典礼聖人暦から聖女の名前をもまた、アレクサンドリアの聖カタリナ同様に取り除いたと言われている。終末大艱難時代の偉大な祈りの取次ぎ手となる処女と殉教者の守護聖人である。聖処女バルバラのお取次ぎは、大艱難時代の守護聖人のひとりとして強力であることは間違いない。

 著名な聖バルバラ伝説は、11世紀南イタリア「866・コンデックス・ヴァチカヌス」とフォラギネ著「黄金伝説」の2文献が上げられる。

[図像]
 持ち物には三つの窓がついた塔,聖杯,聖餅,その他本,棕櫚、剣。
へリオポリスにちなんで、不死鳥の代わりに、西欧では孔雀の羽が描かれた。

聖バルバラに対するとりなし(代願)の祈り

「おお、神よ、処女にして殉教者なる聖バルバラのとりなしによって、助けを与え、不慮の死にあわぬように、わたしの終わりの時に聖なる祕蹟が受けられるようお願い致します。見える敵、見えない敵からわたしを守り、永遠の生命の恵みを得らるよう、われらの聖主イエズス・キリストの聖名によってお願い奉る。アーメン。」





【参考文献】
バルバロ神父訳「聖書」(講談社)
キリスト教美術図典1990年版/柳 宗玄、中森 義宗 編著
Jacobus de Voragine [ Legenda aurea ] ヤコブス・デ・ヴォラギネ「黄金伝説」
訳者:前田敬作・西井 武/発行所:株式会社人文書院
守護聖者/植田重雄著<中公新書> 他)

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